和を以て貴しとなす
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「和を以て貴しとなす」
2012-02-20
―はじめに―
「和を以て貴しとなす」の掲載にあたり、簡単にご挨拶させていただきます。
私は、司法書士業務、家事調停委員としての調停業務を通じて貸金や賃貸借、交通事故などの民事紛争、離婚問題や遺産分割などの家事紛争の場に数多く関わってまいりました。
紛争の態様は一つとして同じものはありませんが、誤解を恐れずに申し上げれば、紛争の解決を困難なさしめる背景には、自己の感情に偏りすぎるあまり、相手の意見を「素直に聞き入れることができない」ことが大きく起因していると考えます。
「和を以て貴しとなす」 聖徳太子が「憲法17条」に記した言葉ですが、この言葉は決して人の意見に従いなさいとか、人の意見に流されなさいなど、自己の意見を曲げることを説いた言葉ではありません。物事(とかく重大なものほど)は互いに協議して決するべきであり、自己の意見や派閥に偏らずに協議すれば、そこで得られた合意は、おのずから道理に叶うというものです。
私は、紛争解決には、自己の思いを素直に、正確に伝えながら、一方で相手の意見を素直に聞き入れることが肝要であり、これこそが紛争解決の一番の近道であると考えております。
どの程度皆様方のご参考になるのか推し量ることはできませんが、日々預かる業務の中から、私が体験した紛争事例に、当事者の思い、法的な判断を交え紹介させていただくことで、皆様方がこれから向き合うことになるかもしれない紛争解決の一助になればと思い「和を以て貴しとなす」を開設いたしました。
不定期掲載ではありますが、お気軽にお立ち寄りいただき、ご一読いただければ幸いです。
第1回 遺言者が死亡するよりも前に受遺者が死亡した場合の遺言の効力
2012-02-20
【事 例】
Bさんより亡夫Aさん所有の自宅不動産の相続による名義変更手続の依頼を受けました。
Aさんは、自宅不動産を妻Bさん、長男Cさんに各2分の1ずつ相続させる内容の公正証書遺言を残していました。しかし長男Cさんは、Aさんが死亡する以前に死亡していました。依頼者Bさんは、Cさんが取得するはずであった2分の1については、当然Cさんの長男(代襲相続人)Dさんが取得し、BさんとDさんの名義にしてほしいとのことでした。ところが後日、名義変更に必要な戸籍謄本等を取り寄せてみるとAさんには先妻との間に子Eさんがいることが判明しました。すぐに、Bさんに連絡を取り、Eさんの存在、更に名義変更手続にEさんの合意が必要であることを伝えたところ、Bさんにとってはまさに晴天の霹靂であり、最初は信じられない様子であったが、仕方なくEさんと連絡をとり遺産分割協議をするとのことでした。その後、Eさんとの協議は合意に至らず家庭裁判所に対し遺産分割調停の申立をしました。家庭裁判所で月1回のペースの期日、約1年にも及ぶ期間を経て最終的にEさんの相続分をBさんが100万円で買取る(代償金の支払い)ということで調停が成立しました。 Eさんの相続分は評価としては、100万円をはるかに越えるものであったが、お互いの様々な背景、事情を考慮し、また調停委員の方々の努力で無事解決することができました。
【法的見解】
遺言により遺産を相続する人が遺言者より先に死亡した場合は、どうなるのでしょうか。
民法第994条は「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定しています。遺言で財産を引き継ぐものとして指定された相続人や受遺者が、遺言者より先に死亡した場合は、その部分について無効となります。よって、遺言者による指定がなかったことになり、その部分の財産に関しては、法定相続人全員の協議により、財産を引き継ぐ者を決めなければなりません。
【雑 感】
Aさんは、Eさんの存在が気になったために公正証書による遺言をしたことが推察されます。つまり相続人の間の争いを望まずそれを未然に防ぎたいという意志で、あえて遺言をしたのだと思われます。まさか自分が死亡した後、遺産分割調停まで発展するとは思っても見なかったことでしょう。それはCさんが自分よりも先に他界したことに起因することであると思われます。
私も依頼者から遺言の作成手続や公正証書遺言の証人として関与することがあります。
遺言をされる方の大半は、高齢者が多く、まさか自分より先に子供が死ぬことは考えておられません。専門家としては、財産を渡したい人が自分よりも先に亡くなったこと場合にどういうことになるのかということも依頼者にきちんと説明するとともに、そのようになった場合は直ぐに遺言を書き換える等の助言をすることによって、依頼者の意向に沿った遺言書の作成のお手伝いができるようしなければならないと改めて認識させられました。
自然の摂理からすると子が親よりも先に逝くことは、親からしてみればまさに想定外の出来事であると同時に、非常に悲しいことでもあります。私にもまだまだ元気な母親がいます。決して母親に悲しい思いをさせないようお酒の飲みすぎに注意したいと思っています。